名古屋高等裁判所 昭和25年(う)2174号 判決
依つて按ずるに、刑事訴訟規則第一九三条に依れば、検察官はまず、事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調べを請求しなければならないと規定せられてあり、刑事訴訟法第三〇一条に依れば云々被告人の供述が自白である場合には犯罪事実に関する他の証拠が取調べられた後でなければその取調を請求することができないと規定せられてあつて一見互に矛盾するようであるが、右は要するに検察官の抱懐する証拠方法を可及的一時に発表せしめて被告人の防禦方法に遺憾なきを期すると共に裁判所に対し犯罪事実に関する予断を防止せんとする法意に外ならないのである。而して検察官が被告人の自白調書を他の証拠と同時に取調を請求した場合に於ける弊害は専ら裁判所に於ける予断に外ならないのであるが然しこの予断は「証拠調の請求」に依つて生ずるのではなくして「証拠の取調」から生ずるのである。故に例令検察官に於て、被告人の自白調書を他の証拠と同時に取調を請求しても裁判所に於て犯罪事実に関する他の証拠を取調べた後に被告人の自白調書を取調べた場合は右の予断を生ずる虞れが無いのであるから前記両法条の期待に反しないと謂はなければならない。之を本件に就て看るに、原審第二回公判調書の記載に依れば検察官は犯罪事実に関する他の証拠と同時に被告人の自白調書の取調を請求してあるが、右自白調書の取調自体は証拠調の最後に取調べられたい旨申立て原審も右の請求に従つて右自白調書の取調を為したことが明であるからこの点に関する原審の訴訟手続には何等の違法が無い。次に住居侵入罪の成立に就て考察するに、通常他人の許諾すべき状態に於て其住居に立入る行為は常識上権利者の黙示の許諾ありと認められるから敢て咎むべきものではないが、苟しくも違法の目的を以て侵入する場合は例令其形式に於て平穏であつたとしても素より権利者の許容しないものであり、また其目的が平穏であつたとしても其手段に於て違法な場合は之亦権利者の許容しないものであるから何れも住居侵入罪を構成するや勿論である。記録に依れば原審引用挙示の司法警察員作成の被告人に対する第一回供述調書の記載中被告人の供述として、被告人は被害者宅の板戸が麻繩で縛つて錠を掛けてあつたのを切断して侵入したことが認められるから、該侵入の目的が例令金員借用の申込であつたとしても勿論住居侵入罪を構成すべきものと謂はなければならない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)